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あと一話で完結です♪
同盟さんで30分で文章書くというのをやったのですが、折角なんで追記にこっそり入れておきます。
意味不明な感じですが、まぁ早書きなんでorz
××村完結したら、次は何連載しようかなぁ。考えておかないとね。
30分小説 お題「冬の海」
どす黒い。墨を濁したような、青を穢したような、そんな色。
視界の半分を埋めるその色に、その先から見えてくるはずの白を探して、ボクは背伸びをした。
もっとも、そうしたところで、視界が上がるのは僅か数センチ。
はるか彼方にあるはずのそれが見えるはずもない。
「今年は、遅いらしいからな」
背に響いた声に振り返れば、陸がいた。外は寒いからで部屋から出たくないと言っていたのに。
「温暖化の影響らしいぜ」
陸は、ボクではなく、ボクの向こう側をみて呟いた。
ボクも視線を正面に戻す。広がるのはどす黒い色をした、海。
吹き付ける海風がボクの髪を揺らし、頬を打ちつける。ボクは首を竦め、マフラーを引き上げた。
「戻ろうぜ」
「ヤダ」
「ここにいたって見えるわけじゃないし」
「わかってる」
「じゃあ」
「ヤダ」
ヤダ、とボクはもう一度言った。背後で、溜息らしき呼気が漏れたのは気のせいじゃない。
「じゃあ、勝手にすれば」
海風よりも冷たい響きが、鼓膜に流れる。ボクは唇を噛み締める。
手袋の内側の、すっかり冷えてしまった指を固く結んで、ボクは真っ直ぐ前を見据える。
真っ黒い海のその向こう。遠い海から流れてくる白い北の氷をボクは見てみたい。
*
「流氷って知ってるか?」
最初にそれを言ったのは陸だった。名前は知っていたから、ボクは頷いた。
「シベリア、だっけ? アラスカ? まぁ、兎に角、北の海から氷の山が流れてくるんだけどな」
正確にいうと、流氷は日本ではシベリア東部から南下してくるのだが、彼の言がかなり大雑把なことを知っているボクは何も言わずにいた。
「見たくないか?」
彼はいつものように無邪気に笑って言った。姉さんがいうには、うそ臭いというその笑顔で、ボクを頷かせようとしている。
見たいか、見たくないか、といわれれば、見てみたい気もする。だけど、そんなことをして何の意味があるのか。
流氷を見たからと言って、それが何かの役に立つわけでもなく。受験の問題として出るというならば、話は別だけど。
「なぁ、どうなんだよ」
いつもと同じ。彼の単なる気まぐれ。それに付き合う義理はないのだが。
「見たい」
ボクは彼に良く似たうそ臭い笑みを浮かべる。彼は満足そうに頷いた。
「じゃあ、行こう」
*
そうして連れ出された流氷が辿り着く町。
だけど、現実はそんなに甘くなく、近年何かと話題の「温暖化」の影響なのか流氷はまだ来ていないそうだ。
「なら、帰るか」
あっさり告げた陸とは違い、ボクには姉さんの反対を押し切って出てきた手前があった。そう簡単には戻れない。
陸に対する抗議のつもりでボクは意味もなく、海辺に立っていた。
そう意味はない。ここで意地を張る意味はない。
ただ、良く分からないものに突き動かされてボクはここにいる。
風邪を引かないようにと、多めに着せられた服も防寒着も意味をなさないほどの寒さがボクを襲う。
ボクは身を竦ませる。
戻ろうか。建物の中に戻ろうか。どうせ、流氷はこない。少なくとも、ボクがここにいる間はこないのだから。
寒さに気持ちも縮ませられ、ボクは重い足を持ち上げかけた。
「ほら」
頬に当たったぬくもり。
振り返れば、いつの間にか、陸がそこにいた。
頬に当てられていたのは、コーンポタージュの缶。
陸は無言で紙袋を差し出す。中に入っていたのは大量のホッカイロ。
「いっぱい、もらってきたぜ」
そういって、陸は笑うから。
「もう少し付き合ってやるよ」
大人気ない言葉が掠めるけど、そこに冷たさは宿ってない。
「もしかしたら、流氷、くるかもしれねーし?」
うそ臭い笑みに優しい嘘を隠して、彼は言うから。
冷えた身体がポカポカしてくるのを感じた。
彼の笑みにつられて、ボクも口元を緩めた。
「きっとくるよ」
彼と同じ笑顔で、ボクも言った。
<了>